ポータブルラジオでNHK-FMの毎週ジャズ番組を楽しんでいた中学生が、はじめてクラシックではなく、「ジャズ」のレコードを買う。

マッコイ・タイナー『Enlightenment』。
このピアニストの曲づくりとピアノ・スタイルはFMでなじんだし、気に入っていた。だがレコードで、ステレオで聴いたとき、それは、何よりも”つよかった”。

骨太なオスティナート、急激に細かく走りだすのに肉厚な個々の音。移行しドライヴするアクセント。それに、たとえばローレンスのサックスは、そのかすれ、マイクに近づいたりはなれたりという動き、息音のもれ、と、スタジオの録音とはまったくちがうライヴゆえの臨場感があった。

そうなのだ、おなじ曲がスタジオとライヴではいっていると、迷わずライヴ盤を買う癖がついてしまったのはこのときからなのだった。