僕のジャズとの遭遇は、高校三年のとき。身長はもう止まっていたが、内側にあるものがひたすら背伸びをしようとしていた頃、水俣病を主題にしたジャズの組曲があると知り、レコード店で探して買ったのが、秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグ・バンドの『インサイツ』。

自分でもかなり突飛な作品から手をつけたことはわかっていたが、B面21分におよぶ「ミナマタ」に圧倒させられたのはもちろん、A面の佳曲も繰り返し聴いているうちに、モダン・ジャズの表現自体に興味を持ち、名盤ガイドをたよりに体系的に聴き始め、ジャズ喫茶やライヴにも通い出した。

僕が大学生だった1980年代は、ビッグ・バンドが先鋭的に再構築された時代で、ギル・エヴァンスやジャコ・パストリアスの来日公演も印象深い。その後、長くクラブ・ミュージックやロックに浮気しながらも、ジャズの新しい動向に心が沸き立つことがある。それはどうやら、いくつになっても自分の感性が背伸びをしたがっているときのようなのだ。

多くの巨人を生み出したジャズは、聴く者の魂をも巨大にするらしい。